こんにちは。不登校や発達障害のお子さんと保護者さんのための居場所、Branchコミュニティを利用している、保護者ライターのタカハシです。
不安を感じやすかったり、ふだんと違うことが苦手だったりするお子さんのいるご家庭にとっての「防災」を考えるシリーズ。
その第二弾として、今回は「福祉避難所」を取り上げます。
「福祉避難所」は、学校の体育館などの一般の避難所で過ごすのが難しい人のために開設される避難所です。いったい、どこに設置され、どんな人が使うことができるのでしょうか。
Branch保護者に向けて行った、認知度アンケートの結果と併せてお伝えします。
はじめに
私が福祉避難所を知ったきっかけ
2024年1月1日の能登半島を襲った地震のあと、SNSを通じて目にした書き込みで、私ははじめて「福祉避難所」の存在を知りました。
この投稿には、「障害のあるお子さんなどでパニックや大声で避難所にいられない懸念がある場合に」と書かれています。
福祉避難所というものがあることすら知らなかった私は、この投稿を見て、次のように考えました。
なるほど、確かにたくさんの人と一緒に生活する避難所が苦手な人にとって、とても大切な情報!
私は知らなかったけど、行政の福祉サービスとのつながりがあれば、緊急時の避難先の選択肢として教えてもらえるのかな。
一方で、こんな疑問も湧きました。
でも、「避難所にいられない懸念」があるのは、障害という診断が出ている人に限らないはず。
不登校の子のなかには人が大勢いる場所への拒否感が強い子も少なくないし、発達障害の診断がなくても、感覚過敏などからくる疲れやすさが避難所での集団生活を困難にするケースもある。
そういった人たちの受け皿はどこにあるんだろう…?
私の娘にも、不登校のはじめの数か月間、家の外や家族以外のすべてを「怖い」と言って、閉じこもっていた時期がありました。もしもあのころ、大きな災害に見舞われて避難の必要が生じていたら…。
想像するだけで途方に暮れる思いがします。
娘は今でも、人のたくさんいるザワザワした環境が苦手です。仮に避難生活が長期化した場合、一般の指定避難所以外にも選択肢を得られるのであれば、あらかじめ知っておきたいと考えました。
ひきこもりと避難
そんな考えをめぐらせていたとき、私の脳裏にあったのは、東日本大震災でひきこもりだった息子さんを亡くされた、佐々木善仁さんのことでした。(佐々木さんご家族の震災の経験や現在の活動についてはこちらの新聞記事をご参照ください。)
佐々木さんの次男・仁也さんは中学で不登校を経験し、その後進学しますが、震災のおきた2011年には完全に自宅にひきこもる日々を過ごされていたそうです。津波の到来を知らせる警報が鳴るなか、海に近い自宅から仁也さんが出ることはなく、ギリギリまで避難を促し続けた母親のみき子さんとともに、命を落としてしまわれました。
父親である佐々木善仁さんは、現在、地元・陸前高田市でひきこもりや不登校の子の「居場所」を運営しながら、ご自身の経験を伝える講演活動などをなさっています。
NHK福祉情報サイト「ハートネット」の「「ひきこもりと防災」災害時に避難する?しない? 」という問いかけには、次のような回答が寄せられています。
- 避難しない。人間にまみれて過ごすと思うだけで動悸がしてきてパニック状態になる。同じ空間にいるだけでも、話しかけられるのも、近寄ってこられるのもムリ。
- 「自分はひきこもりである」という自責の念、そして人と関わる恐怖から避難所に行かない事を選ぶと思います。その時がきて助かりたいと思っても動けないと思います。
- もし実家でひきこもっていた頃に災害があったらたぶんできなかったと思います。「しない」のではなく「できない」のです。
NHK福祉情報サイト ハートネット
「ひきこもりと防災:災害時に避難する?しない? あなたの声をお寄せください」より
ここに回答した方々の背景はさまざまだと考えられますが、その声は、「人が怖い、外が怖い」と泣いていた2年半前のわが子の姿と重なります。
彼らを動かすために、せめて一般の人と一緒にならないで済む避難先が用意されている必要があると、強く思わずにいられません。
福祉避難所について、私たちが知っておきたいこと
緊急時に福祉避難所という選択肢に辿り着くことができるかは、時として命にかかわる切実な問題です。
さまざまな問題から一般の指定避難所への避難が容易でない子を持つ保護者のひとりとして、この記事では、以下の2点に絞って福祉避難所について調べてみました。
- 「福祉避難所」の情報はどこで得られるのか?
- 「福祉避難所」を利用できるのは誰か?
福祉避難所とは何か、誰が利用できるのか
福祉避難所の定義
そもそも行政は、「福祉避難所」をどのような位置づけで捉えているのでしょうか。
まずは、2016年に内閣府から出された「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」より、「福祉避難所の定義と対象」の項目を見てみたいと思います。
福祉避難所は、「災害対策基本法施行令」に則って設置されます。
内閣府令(災害対策基本法施行規則第1条の9)で定められた基準は次の通りで、特に設備面や介助等のマンパワーの面で、充実した措置がとられる必要があることが述べられています。
- 高齢者、障害者、乳幼児その他の特に配慮を要する者(以下この条において「要配慮者」という。)の円滑な利用を確保するための措置が講じられていること
- 災害が発生した場合において要配慮者が相談し、又は助言その他の支援を受けることができる体制が整備されること
- 災害が発生した場合において主として要配慮者を滞在させるために必要な居室が可能な限り確保されること
利用対象者
「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」には、対象者として想定が次のように書かれています。
「高齢者、障害者の他、妊産婦、乳幼児、病弱者等避難所での生活に支障をきたすため、避難所生活において何らかの特別な配慮を必要とする者、及びその家族」
ここでは「何らかの配慮」が何であるかは具体的に示されておらず、医学的な診断等のない引きこもりや不登校の人たちにも門戸が開かれていると読むことができる内容だと思います。
ところが、2021年になって、政府は「受入れを想定していない被災者が避難してくる懸念に対応」するものとして、「指定福祉避難所の受入対象者を特定し、特定された要配慮者やその家族のみが避難する施設であることを指定の際に公示できる制度」を導入しました。(福祉避難所の確保・運営ガイドラインの改定(令和3年5月))
具体的には、「「高齢者」、「障害者」、「妊産婦・乳幼児」、「在校生、卒業生及び事前に市が特定した者」など」と、書かれています。
これにより、自治体によっては福祉避難所への受け入れ対象を限られた範囲の「要配慮者」に、あらかじめ絞り込めるようになったと言えるかもしれません。利用を希望する側としては門戸が狭まった印象ですが、自分や家族がその対象になるかを事前に知っておくことができるようになったと捉えることもできるかと思います。
あとで詳しく述べますが、このあたりの運用は自治体による差がかなり大きいようですので、ぜひお住まいの自治体のホームページ等で確認してみてください。
福祉避難所を知っていましたか?Branch利用者へのアンケートより
私自身は、今回の能登半島地震後にはじめて「福祉避難所」を知りましたが、ほかのBranchユーザーのみなさんはどうだったのでしょうか。
そもそもの認知度や、知っている人はどのような経緯で知るに至ったのか、医療や福祉とつながっていることと関連があるのかなど、気になった点について緊急アンケートをとってみました。(回答数25件)
Q.「福祉避難所」を知っていましたか?
知っていた方が32%というのは、私としては想像よりかなり少ない印象を受けました。
Branch利用者の中には、支援級に在籍していたり、療育や放課後デイサービスを利用していたりするお子さんも多くいらっしゃいます。福祉避難所に関する情報を持っている可能性がある場所とつながっているBranch利用者でこの数字だとすると、一般的には「福祉避難所」の認知度がもっと低いことが考えられます。
実際に「福祉避難所」を、どのような経緯で知るに至ったかも聞いてみました。
Q.「はい」と答えた方へ、行政(自治体の福祉サービス等)を通じて案内がありましたか?
福祉避難所の開設義務が課せられている自治体自体からの案内を受けた人は、1人だけでした。
Branch利用者の福祉サービスの利用状況などさまざまな背景を考慮に入れる必要がありますが、いったんそれを置くとしても、1人だけというのは少ない数字と言えるのではないでしょうか。
そのほかの保護者の多くは、自らアンテナを高く張って過ごすなかで、情報に辿り着いてきたようです。
- インターネットや本などの情報収集を通じて(3人)
- テレビで話しているのを耳にしました。
- 町内会で配布される広報に掲載されていたことを覚えています。
- 家庭に配布されていた防災マップにも記載がありました。
- 防災アドバイザーさんの個別サポートを利用したときに教えてもらった。
- 家族が福祉避難所になる場所に勤めているので。
なお、福祉避難所を知らなかったと答えた方々のなかで、実際に行政の福祉サービスとつながっているのは、3割程度でした。
Q.「いいえ」と答えた方へ、行政の福祉サービスとはつながっていますか?
情報は待っていても得られない
今回のアンケートを通じてわかったことは、福祉避難所についての情報が、ただ待っているだけではなかなか届いてこないということです。
不登校や発達障害など、何らかの配慮やケアが必要となっている子どもがほとんどを占めるBranch利用者ですが、そうした状況にあっても、行政に限らず、学校や医療機関や放課後等デイサービスなどが、積極的に「もしも」に備えた対策まで面倒を見てくれるわけでないことが浮かび上がってきます。
それ自体、個人的にはとても残念なことと感じています。
福祉避難所は、設置場所だけでなく、人手や物資の確保の面からもそもそも十分な数の用意が見込めない自治体も多いため、広く周知徹底するところまで至ってない可能性もありそうです。
福祉避難所の不足は、今回の能登半島地震でも問題になっていました。輪島市など被害の大きかった地域では、地震発生から1月半の時点で、計画の2割程度しか開設できていないと言います。
こうした問題があることも踏まえながら、ひとまずここからは、私たち保護者がすぐにできることとして、いくつかの自治体の例を見ていきたいと思います。
まずは、お住まいの自治体の情報を
ご自身の住んでいる自治体ではどのような体制になっているか、まずはホームページや広報誌などをチェックして確認してみましょう。
福祉避難所の開設は自治体に委ねられていることもあり、その設置場所や利用までの手順についてはかなりのバラつきがあるようです。
以下、多様な例の一部をご紹介します。(個別には言及しませんが、Branchオンラインコミュニティ内で寄せていただいた情報も含んでいます。ご協力に感謝いたします。)
東京都内の例
東京都A区
【設置場所】老人ホーム、福祉作業所、障害者支援施設、学校など
【開設目安】災害発生から概ね3日経過後
【対象者】特別な配慮を必要とする要配慮者のうち高齢者や障害者、母子等
【避難までの手順】一般の指定避難所での生活が困難であると区が判断した人が移動
東京都B区
【設置場所】名称等の具体的な記載なし
【開設目安】災害発生から概ね3日経過後
【対象者】高齢者や障がい者、その他の特別な配慮を必要とされる避難者
【避難までの手順】区が開設状況などをみて受け入れ調整を行う
東京都内では、福祉避難所となる施設があらかじめ公示されている自治体とそうでない自治体が見受けられました。東京に限らず、大都市圏では人手やスペースの確保の困難が大きいためか、詳しい情報公開が見られないケースが多いようです。
「まずは一般の避難所へ」と呼びかける記載も繰り返される傾向があり、福祉避難所へ希望者が殺到しないようにという意図が強く感じられました。
地方都市で多く見られる記載例
C市 西日本の政令指定都市
【設置場所】老人ホーム、障害者福祉施設、特別支援学校、大学など
【設置目安】記載なし
【対象者】福祉的配慮が必要な要配慮者
【避難までの手順】一般の指定避難所で避難している人のうち必要と判断された人が移動する
D市 東日本の県庁所在地 人口30万人
【設置場所】老人ホーム、障害者施設、支援学校等
【設置目安】避難生活が長引くことが予測される場合に開設
【対象者】一般の指定避難所での生活が困難な高齢者、障害者等とその家族(必要最少限)
【避難までの手順】配慮の必要な人を市が判断したのち移動する
ホームページには、こうした記載にとどまる市町村が多いようです。避難所の名称や住所は、ほとんどの自治体で公開されているのが見受けられました。
災害への備えが進んでいる地域の例
E市 過去に大きな震災に見舞われたことのある西日本の政令指定都市
【設置場所】高齢者施設、障がい者施設、宿泊施設、地域福祉センターなど
【設置目安】記載なし
ただし、震度6以上の地震発生時には「基幹福祉避難所」が市の要請を待たずに開設
【対象者】災害時の避難所での生活において、何らかの特別な配慮が必要な要援護者
【避難までの手順】ケースワーカー・ヘルパー・保健師などが一般の指定避難所を巡回して判断
【その他】各避難所の混雑状況等がわかるアプリの配信、事前の災害時要支援者リストの作成などあり
F市 2000年代に震災で被害の大きかった都市 人口27万人
※福祉避難所に類するものが数種類あり、細かな記載があり
【設置場所と対象者】
福祉避難室:小中学校の特別教室等(介護士等の支援が必要ない人)
福祉避難所:高齢者センターなど(介護士等の支援が必要な人)
緊急受け入れ施設:特別養護老人ホーム等(重度の方)
子育てあんしんの避難所:0歳児とその母親、妊婦 ←地震発生72時間のみ。その後、福祉避難室へ
【開設目安】
災害直後から一部の一般指定避難所内の区切られたスペースを利用可能。
受け入れ体制があれば要介護者向けの福祉避難所も利用可能。
【その他】
災害発生後からの動きのタイムラインや、福祉避難所/室の利用ができる人の目安が明文化されている。
被災者がどの時点でどのような支援を受けられるかの目安がわかるようになっていた。
大きな災害を経験した自治体は、災害への構えが先進的で、細かく配慮された防災計画が練られていることが印象的でした。難しいことかもしれませんが、こうした取り組みがすべての自治体に広がることを願わずにいられません。
公開されている内容は、自治体によってかなり違う
ここにあげた例はごく一部で、自治体により対応はさまざまです。
災害による甚大な被害を受けたことがある地域は防災意識も高く、自治体の取り組みも具体的かつ手厚いものがある一方、東京などの大都市圏を中心に、ホームページ等の情報だけでは十分な避難イメージを持ちにくいケースもありました。
また、全体を通じて「誰が福祉避難所を利用できるのか」は曖昧で、手帳や障害認定の有無が線引きとなってはいないようです。要配慮者の事前の登録ができる自治体では、あらかじめそうした手続きをしておくことを考えても良いかもしれません。
おわりに
この記事では、「福祉避難所」について、以下の観点から見てきました。
- 「福祉避難所」の情報はどこで得られるのか?
- 「福祉避難所」を利用できるのは誰か?
認知度もあまり高くなく、情報も得にくい「福祉避難所」については、現状では残念ながら自ら積極的に調べることが必要なようです。
一般の指定避難所で過ごすのが難しいお子さんとそのご家族にとって、福祉避難所の存在は少なくない安心をもたらすものだと思います。すべての希望者が利用できるとも限らない現実はありますが、この機会にご自身の住む自治体の備えについて調べ、災害時の避難計画の一助にしていただけたらと思います。
《謝辞》本記事を執筆するにあたり、Branchオンラインコミュニティの保護者のみなさんにアンケートの回答や助言を多くいただきました。ご協力に感謝いたします。
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この記事を書いているBranchは、不登校・発達障害のお子さま向けの「学校外で友だちができる」Branchコミュニティを運営していて、以下のような特徴があります。
- 「学校行きたくない」という気持ちを抱え、家族以外の人との関わりが減ってしまった不登校のお子さま達が自分の「好きなこと」をきっかけに安心できる居場所や、友達ができるようなサービス。
- NHKや日テレなど多くのメディアにも紹介され、本田秀夫先生との対談や、厚生労働省のイベントの登壇実績もあり、サービス継続率は約95%以上。
- 小学校低学年のお子さまはもちろん、どんな子でも楽しく参加できるようにスタッフがお子さま一人ひとりに寄り添ったサポートを徹底。
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