こんにちは。不登校や発達障害のお子さんと保護者さんのための居場所、Branchコミュニティを利用しています、ライターのタカハシです。
Branchには、「算数・数学部」という部活が存在しています。文系出身で、数学にあまり良い思い出のない私にとっては縁のなかったこの部活を、この原稿を書くにあたり、はじめて覗かせてもらいました。
算数・数学部のチャット画面を見ると、何やら難しい数学の問いについて語らったり、低学年向けの問題に対するChatGTPの解説にツッコミを入れたりと、和気あいあいとしたやり取りがなされていました。
何が何やらさっぱりわけがわからない話題から、クスッと笑ってしまう内容まで。大人も子どもも一緒になって、実に楽しそうです。
こんなふうに、難解な数式の話題で盛り上がれるほどに算数・数学が好き、得意な人がいる一方で、当然のことながら、算数・数学が嫌い、苦手であると感じている人もいます。上に書いた通り私自身も決して数学は好きではなく、得意でもなく、受験に必要だからと仕方なく最低限のことだけこなして学生時代をやり過ごしていました。
「算数・数学が苦手」とは、この私の例のようにしばしば耳にする言い回しですが、一方で「得意」「苦手」の程度の違いに収まらないほどに、算数・数学に大きな困り感を抱えている子もいます。
そうした子どもたちは、「算数障害」に該当するかもしれません。この場合、先天的な脳機能の凸凹が影響しているため、本人の努力では克服が困難であり、その子の特性に合った学び方や環境調整など、個別のサポートが必要になります。
また、「算数・数学」という教科が必要とする能力はとても広範囲にわたり、狭義の「算数障害」だけでは説明のつかない困りごとを抱えている場合も考えられるといいます。この記事ではこうした、算数・数学の困りごとについてのさまざまな原因を概観し、最後に保護者がとれる対応を考えてみたいと思います。
算数障害の定義とチェックリスト
算数障害は、知的発達に遅れはありませんが、計算や文章題に著しい困難が生じる障害です。発達障害のひとつである学習障害/LD(限局性学習症)に含まれ、読みの困難とともに生じることも多いと言われていますが、読みの困難はないにも関わらず算数の困難のみが生じることもあります。
この記事で扱う算数障害を含む発達障害は、先天的な脳機能の発達の凸凹と環境のミスマッチによって生じる障害です。算数・数学に大きな困難を感じている場合、本人の努力次第でどうにかなるものではない、医学的な意味での「算数障害」の可能性があることを知っておきましょう。
参考になるチェックリストが心理学会の機関紙『心理学ワールド』70(2015年)に掲載されています。学習障害児の療育指導などを研究されている筑波大学の熊谷恵子氏の「算数障害とはいったい?」より、「計算や推論の困難に関する気づきの項目」というチェックリストを下に引用します。
領域 | No | 項目 | ない | ときに ある | よく ある |
---|---|---|---|---|---|
数処理 | 1 | 数字を見て、正しく数詞をいうことができない(読み)。 | |||
2 | 数詞を聞いて、正しく数字を書くことができない(書き)。 | ||||
3 | 具体物を見てそれを操作(計数するなど)して、その数を数字や数詞として表すことができない。 | ||||
数概念 (序数性) | 4 | 小さい方から「1,2,3,…」と数詞を連続して正しく言うことができない(目安として120くらいまで)。 | |||
5 | 自分が並んでいる列の何番目か言い当てることができない。 | ||||
数概念 (基数性) あるいは 数量感覚 | 6 | 四捨五入が理解できない。 | |||
7 | 数直線が理解できない。 | ||||
8 | 多数桁の数の割り算において、答えとなる概数がたてられない。 | ||||
計算 (暗算) | 9 | 簡単な足し算・引き算の暗算に時間がかかる。 | |||
10 | 九九の範囲のかけ算・割り算の暗算に時間がかかる。 | ||||
計算 (筆算) | 11 | 多数桁の数の足し算・引き算において、繰り上がり・繰り下がりを間違える。 | |||
12 | 多数桁の数のかけ算において、かけたり・足したりの途中計算を混乱したり、適切な位の場所に答えを書くところで間違える。 | ||||
13 | 多数桁の数の割り算において答えの書き方や適切な位の場所に答えを書くところで間違える。 | ||||
文章題 | 14 | 文章題の内容を視覚的なイメージにつなげられず、絵や図にすることができない。 | |||
15 | 答えを導き出すための数式が立てられない。 |
こうしたリストを利用することで、算数・数学の学習にとって必要な「数字や数詞を正しく理解できているか(数処理)」「正しい順序で数を数えられるか(数概念)」といった基本的な能力の確認ができ、家庭でもおおまかに傾向を掴むことができるのではないでしょうか。
ただし、熊谷氏は、このチェックリストに当てはまる項目が多い場合、「必ず個別の知能検査を行うなどして、全体的な知的能力水準がどれくらいか、また、知的能力を構成する下位の認知能力の強い・弱い能力を同定しておくことが重要である」とも書かれています。保護者としては、これらの結果を参考にしつつ、必要に応じてより詳しい専門機関へ相談し、適切な支援が受けられる体制を整えていくと良いでしょう。
算数・数学の困り感を「算数・数学に必要な力」から考える
実は、算数・数学という教科が必要とする能力は、これまで見てきた医学的な意味での「算数障害」のチェック項目だけにとどまるものではありません。
大阪医科歯科大学LDセンターの栗本奈緒子氏が、その点をわかりやすく説明してくださっている動画をYouTubeで見ることができます。こちらを参考に、あらためて算数・数学という教科の困りごとを見ていくことにしたいと思います。
動画の中で栗本氏は、小学校で学ぶ算数は以下の3つの分野に大きく分けることができると話されていました。
・数と計算
・図形
・量と測定
そして、これらすべてに関わるものとして「文章題」があります。
それぞれの分野に必要となる力は上の図の吹き出しにあるとおりですが、文章題を含む算数の全体に関わってくるものとしては、次のような具体例が示されていました。
・言語を理解する力
・ワーキングメモリー
・注意の力
・プランニングの力
・同時処理
・継時処理 など…
こうしてあらためて並べられると、算数には何とさまざまな力が必要とされていたものかと、驚かれるのではないでしょうか。だからこそ、算数に困難を抱える子どもの指導においては、非常に広範囲にわたり得る「つまずき」の原因を丹念に探り、それに合わせた適切な指導をしていかなければならない、と栗本氏は指摘されています。
繰り返しになりますが、重要なのは、算数の困り感はいわゆる「算数障害」だけが理由ではない、ということを常に考えあわせないといけないということです。
子どもがもし算数を苦手としていて、本人の努力で克服が難しい困難を抱えていたとしても、すなわちそれが「算数障害によるものである」という結論にはつながりません。算数はさまざまな力を必要とする教科であって、医学的な診断である「算数障害」は、そのごく一部の困難を定義するに過ぎないからです。
算数の困り感・算数障害に対して保護者にできること
ここまで、算数障害を含む子どもの「算数の困り感」の背景を見てきました。以下では、保護者ができる具体的なサポート方法をご紹介します。
できていることに注目し、褒め、子どもの自信を育む
算数障害を含む学習障害のあるお子さんは、「どうして自分だけできないんだろう」「がんばってるのに、どうして◯◯(算数、漢字など)だけできないんだろう」と、周りの子どもたちとの差や、自分のなかでの得意・不得意のギャップの大きさを感じて、自信をなくしたり自分を責めたりしてしまうことが多くあります。
保護者のみなさんも、「算数だけできない」ことへの心配が大きくなることと思いますが、だからこそ、お子さんの「できていること」「得意なこと」「好きなこと」に注目して、積極的に褒めてあげてください。その上で、以下に紹介する情報を参考に、専門家を頼ったり情報を集めたりしながら、本人の自信ややる気を育てていってあげてほしいと願っています。
支援機関に相談する
「算数の困り感」の要因や支援方法は、さまざまな角度からの検討が必要です。保護者さん一人で抱え込もうとせず、以下のような支援機関に相談してみてください。
・発達障害専門医がいる小児科・児童精神科
・保健センター
・子育て支援センター
・児童発達支援事業所
専門の外来はなかなか予約が取れないこともありますので、まずは保健センターや子育て支援センターなど、自治体の無料相談窓口に行ってみるのがおすすめです。そこから、専門機関を紹介してもらえることもあります。
特性に合わせた学習方法や支援ツールを探す
現在は教材や学習道具を含め、子どもの特性に合わせた方法がさまざまに研究されてきています。
障害のある子に対する学習支援の例は、以下のようなサイトで見ることもできます。2つ目の井上賞子さんは、学びにくさのある子への学習指導について、非常に多くの情報発信をされています。
同じような特性・困りごとの子ども・保護者同士でつながる
同じようなお子さんをもつ保護者同士の交流を通じて、具体的にどのような配慮をしてもらっているか、また、そのお願いをどんなふうに行ったのかといった経験談に触れられることもあります。
Branchでも、学習障害については過去に何度も話題にあがってきました。以下は直接的に「算数」について触れた記事ではありませんが、参考になることもあるかと思います。
学校での合理的配慮について相談をする
「合理的配慮」とは、障害のある人の権利保障のための、困りごとと場面に応じた個別の調整のことです。障害者権利条約(2008年発効、日本は2013年に批准)や障害者差別解消法(2013年公布、2016年施行)に基づき、学校にも合理的配慮を行う義務が課せられています。
算数障害の場合、たとえば計算の困難さに対して、電卓を使用できるようにする、試験時間を延長するなどが例として挙げられます。
具体的に何をどの場面で合理的配慮として実施するかは、お子さんのニーズや困難さに応じて、学校の先生たちと相談しながら個別に決めていくことになります。
その際、心理士による知能検査の結果や、医師による診断書・意見書など、学校側が判断材料とできる資料があれば、相談にスムーズに進みやすくなるでしょう。
医療機関や相談機関を通じ適切な配慮を一緒に検討してもらうことで、計算機やICTの利用が認められれば、本人の負担感は格段に軽くなります。
その場合、算数のみならず、学習の困難に対するさまざまな要因を踏まえながら、本人にとって必要な配慮が何かを選択していくことになりますので、下記のようなサイトで事前に情報を集めておくと良いかもしれません。
- 独立行政法人 国立特別支援総合研究所 発達障害教育推進センター
「学習障害(LD)のある子どもの合理的配慮」 - 文部科学省「障害のある子供の教育支援の手引~子供たち一人一人の教育的ニーズを踏まえた学びの充実に向けて~」(手引き本編 第3編 P285~)
おわりに
今回の記事では、「算数障害」を含む算数の困り感の多様な原因と、保護者ができるサポートについて見てきました。あらためて言われてみると、算数・数学とは何とさまざまな能力を駆使して問題に向かわなければならない教科だろうと再認識した方もいらっしゃるのではないでしょうか。
医学的な意味での「算数障害」はさまざまに必要な能力のうち、核となる一部分を取り出した判断であるというのは先述したとおりです。ですから、「うちの子は算数ができない」と感じたとき、「算数障害」の可能性を念頭におきながらも、視野を広くもって原因を探ることが大切になると思います。その上で、医療機関や相談機関などを通じての適切な対応の模索、自信と意欲を失わせない環境づくりをしていくための情報収集や学校との交渉なども、保護者にできることと言えそうです。
さて、ここまで書いてきて、LD・算数障害のお子さんを育てる保護者さんにとって、きっと負担感をおぼえる内容であっただろうという懸念が、私の胸を覆っています。
個性が強く、いわゆる「普通」になじまない子を育てるのは、とてもエネルギーのいることです。私自身もそのひとりとして、日々そのことを感じています。
だからこそ保護者のみなさんには、どうかご自身を大切にしていただきたいということも、最後に記しておきたいと思いました。わが子を大切に思い、できる限りのことをしたいと毎日奮闘する保護者さんに届くことを願って、疲れたときのリフレッシュ方法を集めた記事を紹介して終わりにします。
発達障害や不登校の子の「友だちができる。安心できる居場所」とは?
Branchでも1つの解決策として、不登校・発達障害があるお子さま向けの「学校外で友だちができる」Branchコミュニティを運営していて、以下のような特徴があります。
- 同じように「学校行きたくない」という気持ちを抱え、家族以外の人との関わりが減ってしまった不登校のお子さま達が自分の「好きなこと」をきっかけに安心できる居場所や、友達ができるようなサービス。
- NHKや日テレなど多くのメディアにも紹介され、本田秀夫先生との対談や、厚生労働省のイベントの登壇実績もあり、サービス継続率は約95%以上。
- 小学校低学年のお子さまはもちろん、どんな子でも楽しく参加できるようにスタッフがお子さま一人ひとりに寄り添ったサポートを徹底。
Branchコミュニティは1ヶ月無料体験ができるので、ご利用を迷われている方は一度お気軽に無料面談予約をお申し込みください。