左:神戸くん 右:新井くん
ゲームが好き、LEGOが好き。
好きなものがあるのは嬉しいけれど、学校の勉強は?楽しいことばかりしていて本当に大丈夫?
好きなことを仕事にできるのは、もともと頭がいい特別な人だけ?
子どもの「好き」を見守る時、頭をよぎるこんな感情。
経験したことすべてが、今につながっている。
ゲームも学校の勉強も、社会とつながって幸せに生きていくためのツール。
そう話してくださったのは、好きなことを続けてユニークな成果を上げている、高校3年生のお二人。
Pokemon World Championships(※1)2016、2018日本代表、中学校3年生で世界大会に出場された新井清史郎くん。テレビ番組の出演経験もあります。
小学校6年生から中学校3年生まで、FIRST LEGO League(FLL)(※2)全国大会連続出場、高校1年生でFLL世界大会に出場された神戸宏太くん。現在はメンターとして、チームの指導をされています。
今回は、好きなことを見つけて突きつめられた理由、そのために必要な環境について、お二人にお話を伺いました。
(※1)ポケットモンスターのゲーム、カードゲーム、『ポッ拳』の世界大会。新井くんが出場されたのはゲーム部門。
(※2)小学4年生から高校1年生を対象とした、世界最大規模の国際的なロボット競技会。
ーー世界大会出場の経緯を教えてください。
新井くん:僕がポケットモンスター(以下ポケモン)のゲームを始めたのは、幼稚園年長の時です。
同アニメが大好きだったので、自然と興味を持ちました。
ゲームに反対していた両親を祖母が説得してくれて、クリスマスプレゼントに買ってもらったのが最初です。
e-sports(※3)として競技を始めたのは、中学校2年生の12月。
当時やっていた陸上競技で、記録更新に価値を見いだせなくなり、退部したタイミングでした。
YouTubeで、たまたまPokemon World Championshipsの動画を見て興味を持ったのが、大会出場のきっかけです。
(※3 )エレクトリック・スポーツの略。複数のプレイヤーで対戦するコンピュータゲーム(ビデオゲーム)をスポーツ・競技として捉える際の名称。
神戸くん:僕がLEGOに興味を持ち始めたのも、幼稚園の頃でした。
初めて大会に出場したのは小学校6年生です。
たまたまLEGOロボット教室のチラシが家に届き、面白そうだったので通い始めました。
そこでFLLという大会を知り、その教室から出るチームに参加したのがきっかけです。
はじめはLEGOを組み立てるのが好きでしたが、置物のようだった作品にセンサーをつけると、人間のように動かせるのが面白くて。のめり込みましたね。
ーーご家族の支えは不可欠だったと思います。ご両親はどんなふうにサポートしてくださいましたか?
新井くん:周りの声に惑わされず自分の道を進めたのは、母の言葉、父の行動力のおかげです。
僕は幼少期アレルギーを持っていて、食事制限がありました。
我慢しなくてはいけない場面が多い僕に、母は「あなたはあなた。みんなの普通と少し違うだけ」と、人と比較せずに肯定してくれていました。
「自分は自分」と自信を持って行動できるようになったのは、生活に制限があったおかげと思っています。
父は、「日本の素晴らしいものをたくさん見て感性を磨きなさい」と、幼稚園の頃から色々なところに連れて行ってくれました。
家庭の方針で、ゲームの練習時間は1日30分でしたが、やれることは他にもあります。
大会前は、朝から晩まで頭の中で作戦を練ったり、イメージトレーニングをして実戦に備えていました。
神戸くん:僕は割と、好きなだけ没頭させてもらっていました。
LEGO以外でも、やりたいことには全面的に協力し、色々やらせてくれた両親ですね。
例えば僕が「この川に魚を見に行きたい」と言ったら、父は全国どこへでも連れていってくれましたし、母も、常に僕の気持ちに寄り添い、励ましてくれていました。
好きなものは、形を変えて発展していく。経験したものすべてが今につながっている
ーー好きなことと学校の勉強、どう向き合ってきましたか?
新井くん:僕は”受験”に結びつかないことに興味がいってしまうんです。今もそうですね。
学校の勉強はできたほうがいいけれど、感性があればどうにでもなる、という家庭に育ったのもあり。絵や音楽も好きです。
父も、「学校は勉強だけではなく、コミュニケーションを経験する場。遊ぶような気持ちで通えばいい」と言ってくれていたので。
学校へは、友達とのコミュニケーションを楽しむために通っている気がします。
実は中学校の時、行かない時期が4ヶ月程あったんです。
ポケモンの全国大会の準備に集中していた僕に、そんなことをしても意味がない、価値がないと決めつける先生への不信感からでした。
小学校の頃は、自分なりに勉強すればできていました。でも、中学校からはそうは行かず。
例えば数学。試験前、授業で習った方程式をGoogleで調べていたら、ドレイク方程式(※4)にたどり着いてしまったり。
国語では、文章の中に「女の子は本を読んだ」という一文を見つけたら、ストーリーから察するにこれは何の本か、と研究し始めたり。
受験という軸からはズレてしまうけれど、自分なりに見つけた課題の研究・勉強は、かなりやっていましたね。
(※4)地球人と出会う可能性がある、地球外文明の数を推測する方程式。
神戸くん:僕は、生物、物理、歴史が好きですが、どれも教科書をめくって興味を持ったわけではないんです。
魚に興味を持ったのも、きっかけは絵本でした。小さい頃にみて感動して。そこからどんどん理科系に発展していきました。
物理も、LEGO遊びからロボットに興味が移り、学び始めたんです。
あと、大河ドラマが好きでよく観ていました。そこから日本史にハマりましたね。
ゲームも好きでやっていました。
ーーせっかく始めた好きなことも、途中で飽きてしまう場合もありますよね。一つのことを突きつめるのは、かなりハードルが高い気がします。
神戸くん:途中でやめたことも、全部今につながっています。僕も色々なものに手を出してきました。
例えば、大河ドラマから日本史を好きになった経験は、決して無駄になっていません。
歴史の道に進まなくても、偉人たちの考え方に支えられているからです。
僕は、坂本龍馬が大好きです。
誰かに「お前それ無理だよ」と言われても、「いや、オレは大政奉還するんです」と志高く成し遂げていく姿に、強く共感します。
色々なところを突っついてみて、結果が出たのはLEGOですが、今までの経験すべてが僕の力になっている。どれも必要な時間でした。
「勉強」は目標を持ってから始めても遅くない。学ぶ年齢・場所は一人ひとり違っていい
ーー学校の勉強は役に立っていますか?
新井くん:学校では勉強より、友人との関わりの中で、いいコミュニティを作る方法を学べました。
また、大学進学の動機になっている「教育」への疑問も、学校生活から見えてきたものです。
体制や考え方を変えられたら、学校はとてもいいところだと思っています。
神戸くん:学校の勉強はとても役に立っていると感じています。好きなことを深めていく時に、学校で学ぶ教養、高校までの知識は必要です。
ただ学ぶ内容は、年齢や場所にとらわれる必要はないとも思っています。
単元を、学年に応じて完璧にできるようになるのがゴールではないので。知識を身に着けても、それを使う理由がないと意味がないですし。
たとえ学校の勉強に空白期間があっても、違う方法でいくらでもやり直しはきくと思っています。
新井くん:僕も、目標を持ってから知識を加えればいいと思うんですよね。
例えば「この道を極めよう」としている友達がいたら、必要な知識は彼らから教わればいい。
勉強より、コミュニティを作ることを重視して学校に通っても、生きていくのに必要な知識は身に付くのではないでしょうか。
ーーお二人の高校生活は?
新井くん:中学校の先生からは、「君は絶対高校に行けない」なんて言われたこともありましたが(笑)。私立高校を受験し、無事合格して今に至ります。
今は、大学のAO入試のことで頭がいっぱいです。
神戸くん:僕は都立高校に通っています。
自分に合わせて学校という場を作れたらいいなと思い、無学年・単位制に惹かれて受験しました。
自分のペースで楽しく通っています。僕も今、AO入試の準備をしています。
ゲームも勉強も、社会とつながって幸せに生きるためのツール。優劣をつけず、多様な価値観を親子で共有する
ーー好きなことがあっても、なかなか親に理解してもらえないパターンの一つに「ゲーム」があると思います。ゲームばかりやっていても、大丈夫なのでしょうか?
新井くん:実際僕の周りにも、学校へ行かずにゲームに没頭している人はいます。
ただe-sportsのプロの中で、家にこもってゲームをやっている人は数人。少数派です。
学校で色々なことを学びつつ、ゲームはコミュニケーションツールや仕事と割り切ってプレイしている人が多いです。
ただ、家にこもってゲームも、数学・国語を勉強するのも一緒だと思っています。どちらもあまり良くない。
それに、勉強のコミュニティってすごく狭いんです。
でもゲームなら、例えばスプラトゥーン甲子園(※5)などの大会を利用すれば、コミュニティを縦横に広げられます。
目標をゲーム内ではなく外の大会に設定し、そこで一度でも勝てたら、ものすごい自信がつくはずです。
次はこれも行ける、あれも行ける!みたいな活力が湧いてくると思うので。大会最高です。
神戸くん:自分の「好き」なことが制度や大会で認められたら、嬉しいだけではなく自分の「得意」なことに気付くきっかけにもなりますよね。
本人が傷ついてしまっては元も子もないので、参加する時期や大会の種類は、慎重に見極める必要はありますが。
好きなことから学びを広げるチャンスは、誰にでも、絶対あると思っています。
もしゲームが好きなのであれば、それを伸ばしていくという方法でいいと僕は思います。
新井くん:本人が、大会や家庭外の活動を能動的に行えない場合はどうなんだろう。
自分で考えて行動することに意味があるわけで。親が口を出してしまうと、ちょっと違う気がするし。
神戸くん:親がやらせるのではなく、「こういうものもあるよ」と情報を渡せたらいいと思います。
僕の場合も、ロボット教室の情報をくれたのは母でした。能動的に行動して見つけたわけではないです。
新井くん:子どもが聞いてくるまで待ちたいけれど、親としては待てない。というケースもありそうで。難しいですよね。
(※5) インクを撃ち合うアクションシューティングゲーム「スプラトゥーン」の、4人1チームでチャレンジする全国大会
ーー周囲の大人は情報を渡して、本人がどれを選ぶか待つ、と。
神戸くん:そうですね。
ゲームからe-sportsに行くかもしれないし、大会に参加する中で、コミュニティに目覚めるかもしれない。
自分はコミュニケーションが好きと気づいて、そういう方向に発展していく可能性もある。
新井くん:あと、家族からゲーム以外の価値観を提示してもらうのも大事です。
好きなことだけではない、広い視野を親子で共有できるのであれば、ゲームばかり、好きなことばかりやっていて大丈夫?と悩まなくてもいいと思っています。
「天才」は社会が生み出した課題のあらわれ
ーー人と違う生き方ができるのは、地頭がいい、もともと頭のつくりが違うから、と言われることがあると思います。
新井くん:天才、みたいなことは言われます。
神戸くん:ありますね。お前はLEGOがあるからって。
新井くん:以前ある人から、こんな例え話を聞きました。
みんなが電車に乗っていて、いい景色が広がっている駅に停車した時。
次の電車がいつ来るかも分からない中、降りて見に行ける人が、いわゆる天才と言われてしまう。ただ一歩降りられるだけなのに。
そういう人が目立ってしまう社会にこそ課題があるのではないか、と僕は捉えています。
神戸くん:その話で言うと僕は、自分から一歩降りたわけではないですね。たまたまというか。
自分が天才とか、飛び抜けているとは思わないです。
もし僕みたいなケースが良いのだとしたら、好きなことを好きなだけ探究できた環境のおかげです。
本来の探究学習ができていない学校の現状を、変えていきたいと思っています。
好きなことを探究した先にあるのは「夢」
ーー世界大会出場で得たことも、今の課題意識や今後やりたいことにつながっていますか?
新井くん:僕はゲームをするのが楽しいというより、人と人で触れ合っている時間が好きなんです。
SNSでも学校でも、ゲームを通して人と関われる、その時間が楽しくて価値がある。世界大会出場を通して気づきました。
コミュニケーションに魅力を感じ、学校教育に疑問を持っている僕は今、子どもの好きなものと、それに合う会社とのマッチングアプリ開発プロジェクトを進めています。
今後やりたいこと、「夢」もたくさんあります。
地域の方々が学校をサポートしていく、「コミュニティ・スクール」(※4)という考え方がありますよね。
僕はここに、企業にも入ってもらいたいと考えています。
これが実現できたら、子どもがやってみたい・極めたいことのプロを、企業から呼んで授業をしてもらえるようになります。
企業参入にはまだまだ社会に壁があるので、大学で研究し、解決したいです。
神戸くん:僕は、大会で結果を残し、社会から評価してもらえた経験が自己理解につながりました。
子どもたちが好きなことを探究し、それを発表して、さらに発展させられる機会。僕でいうFLLのような制度を作りたいと思っています。
今、教育分野では「社会を生き抜く力」を育てるために、学校の授業を変えていく流れがあります。
その力を育てる要素は何か?僕は3つあると考えています。
学校で習う知識、それを活用して人に意思を伝え、課題を解決するための実践的なスキル、そして「夢」。
僕が好きなことを探究していて一番良かったのは、夢を見つけられたことです。
好きなものがある子どもを、一人も取りこぼさないような仕組みを作りたいと考えています。
例えば、学校に通わない学び方も尊重し、その人の人生として評価してあげられるような学校・社会に変えていきたい。
大学、生涯を通して取り組みたいと思っています。
(※4) 「コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)」http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/community/
圧倒的な実績。夢を実現するための強くしなやかな行動力。優しく素直な人柄。
お二人の魅力は、ご家族との信頼関係が原点にあると感じました。
これから進学し、社会に出ていく頼もしい背中に、エールを送ります。