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「プリント・ディスアビリティ(印刷物障害)」を知っていますか?紙だけではなくデジタルも活用し、多様なコミュニケーション方法を

プリント・ディスアビリティを知っていますか

「プリント・ディスアビリティ(印刷物障害)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

その名の通り、印刷物を読むことが困難な状態をあらわし、学習や読書のみならず、公共交通機関の情報や災害情報の取得など、さまざまな場面に関わるものです。

この「プリント・ディスアビリティ」という概念の広がりによって、印刷物以外による情報取得の手段が増えてきたことで、今、学習障害をはじめとする、発達障害のある子どもたちをめぐる学習や読書の環境が大きく変化しつつあります。

目次

「プリント・ディスアビリティ」とは?

「プリント・ディスアビリティ」は、1990年代ごろに図書館学の分野で出てきた、さまざまな理由によって印刷物を利用することが困難な障害の総称です。

文字や絵などが印刷された「プリント(印刷物)」は、社会で広く利用されている一方、そこに記された情報を、誰もが同じように読み取ることができるわけではありません。何らかの事情で情報を得られず、不利益を被ってしまう人がいることを見逃すべきではない、という考えから、現在、バリアフリーを推し進める上で重要な視点のひとつとされています。では、具体的にはどのような人たちを想定しているのか、まずは、「盲人,視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約」(通称「マラケシュ条約」)の「受益者」の項を見てみたいと思います。マラケシュ条約は、世界知的所有権機関(WIPO)において2013年に採択された、プリント・ディスアビリティのある人びとの権利を保障するための条約で、日本も批准しています。

受益者は、他の障害の有無を問わず、次のいずれかに該当する者である。

(a )盲人である者

(b) 視覚障害又は知覚若しくは読字に関する障害のある者であって、そのような障害のない者の視覚的な機能と実質的に同等の視覚的な機能を与えるように当該障害を改善することができないため、印刷された著作物を障害のない者と実質的に同程度に読むことができないもの

(c) (a)及び(b)に掲げる者のほか、身体的な障害により、書籍を持つこと若しくは取り扱うことができず、又は読むために通常受入れ可能な程度に目の焦点を合わせること若しくは目を動かすことができない者

(外務省ホームページ 条約本文

下線を引いた部分に見られるように、プリント・ディスアビリティは、視覚、知覚認知、読字の障害や四肢の不自由さなど、印刷物を読むことを妨げるあらゆる因子を含むものとされています。文字の読み書きに限定して困難が生じる読み書き障害(ディスレクシア)学習障害(LD)、手と手、目と手など身体の複数の部位の協調運動に困難が生じ、紙や鉛筆、消しゴムを使うことが難しい発達性協調運動障害(DCD)など、発達障害のある子どもの中にもプリント・ディスアビリティのある子どもたちがいます。

「障害の社会モデル」という考え方

このプリント・ディスアビリティは、「障害の社会モデル」に根ざしています。これは、障害とは、多様な心身の特性がある人たちの活動を制限するような社会のつくり出すバリア(障壁)によって生じるという考え方で、障害は個人の身体にあるとする「障害の個人モデル(医療モデル)」に対抗する理論です。

「障害の社会モデル」の特徴を、心理学者の中野泰志氏は次のようにまとめています。

・障害の原因を個人の「心身の機能」ではなく、(中略)活動したり、参加したりすることに制限や制約が加えられる「社会の構築のされ方やあり方」に求める点

・(医療やリハビリなどの ※引用者補)治療、訓練、道具によって解決するのではなく、物理的・社会的環境に介入することによって解決することを重視する点

中野 泰志「プリント・ディスアビリティのある人への合理的配慮としてのアクセシブルな印刷物」

障害者権利条約(2008年発効、日本は2013年に批准)や障害者差別解消法(2013年公布、2016年施行)にも、この「障害の社会モデル」の考え方が反映されています。2017年に閣僚会議で策定された「ユニバーサルデザイン 2020 行動計画」は、「共生社会に向けて、多様性を理解し、社会的障壁を取り除くのは社会の責務である」として、「障害の社会モデル」に基づく指針を明らかにしています。

※現在では、障害の社会モデルからさらに進んで、障害の個人(医学)モデルと社会モデルを統合した障害分類も登場しています。そこでは、「心身機能や身体構造」の身体レベル、「活動」は個人レベル、「参加」は社会レベルと定位し、三者の相互作用の関係のなかで起こる多次元の現象として障害が捉えられるようになりました。

プリント・ディスアビリティのある子どもたちの学ぶ権利を保障するために

「障害の社会モデル」に基づいて、印刷物を読むことができない人たちのためにどのような取り組みが行われているのでしょう。
障害者の権利を守るための法律が整備されてきたことで、学校教科書などの教材や絵本、児童書など、プリント・ディスアビリティのある子どもたちの読書環境も徐々に整いつつあります。主な種別としては、以下のようなものがあります。

・点字
 ・デイジー、テキストデータ
 ・録音図書(DVD、CD、カセットテープ)
 ・大活字本

「デイジー Daisy」は、Digital Accessible Information System の略で、デジタル録音図書の国際標準規格として50カ国以上の国と地域で開発・維持されている情報システムです。朗読音声とテキストや絵のデータが同期され、どこを読んでいるのかを確認しながら読書することができるのが特徴です。
公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会の運営するサイト「ENJOY DAISY」では、デイジーについての詳しい情報を紹介するほか、デイジー教科書や児童書などの情報を提供しています。


デイジー図書の実際の画面
((公財)日本障害者リハビリテーション協会 パンフレット「DAISYってなんだろう」より)

デジタル教科書を利用する

2019年に一部改正された学校教育法に基づき、デジタル教科書の提供が進んでいます。原則として、紙の教科書の内容のすべてをデジタル化したもので、視覚障害や発達障害などを理由に紙の教科書を利用することが難しい人は、全面的に利用することが認められています。


(文部科学省ホームページ「学習者用デジタル教科書について」より)

デジタル教科書は、ルビを振ったり背景色を調整したり、文字サイズを変更したりと各々のニーズに沿った調整が可能であり、発達障害・学習障害の子どもたちの学習機会を広げるものとして期待されています。

出版社提供のデジタル教科書

学校がデジタル教科書を導入している場合は、IDやパスワードを配布してもらうことで利用が可能です。個人で購入する場合は、オンラインで簡単に買える出版社と、教科書販売業者等を介さなければならないケースとがあるので確認が必要です。

デイジー教科書

(公財)日本障害者リハビリテーション協会はデイジー教科書の提供を個人向けにも行っていて、サイトから利用申請することが可能です。

図書館を利用する

たとえ読むことに困難があっても、子どもに本の世界に触れる楽しみを知ってほしいと願う保護者さんは少なくないと思います。
著作権法などの整備が進み、図書館サービスのあり方もプリント・ディスアビリティに対応したものへと変わってきています。

国立国会図書館 視覚障害者等用データ送信サービス

子ども向けの図書も対象としていて、障害者向け資料検索から利用可能な図書を検索できます。事前に利用者登録をしておくことで、その場ですぐにデジタルデータを受信できるものもあります。
視覚障害者等用データ送信サービス(視覚障害者等個人の方向けのご案内)

学校図書館等における読書バリアフリーコンソーシアム

プリント・ディスアビリティのある児童生徒のために、学校図書館ができることは何かを解説したサイトです。在籍する学校の図書館がバリアフリーに対応していなかったときなどに、このサイトを紹介しつつ対応を依頼するのに役立ちそうです。
上記の国立国会図書館など、学校外の図書館を活用した読書支援についても書かれています。
学校図書館における読書バリアフリーコンソーシアム

学校での合理的配慮を求める

こうしたデジタル教科書や図書を学校で利用する場合、学校への合理的配慮を求める必要があります。学習障害など、印刷物による学習に困難があることを伝えることで、合理的配慮の対象になるよう相談してみてください。

合理的配慮の求め方については、こちらの記事が参考になります。
発達障害/グレーゾーン/読み書き障害:学校生活での合理的配慮の求め方

まとめ

以上、プリント・ディスアビリティという比較的新しい概念について見てきました。社会の努力によってバリア(障壁)は取り払うことができるという「障害の社会モデル」という考え方が広がることが、プリント(印刷物)に替わる形の教材や図書の提供につながり、発達障害・学習障害の子どもたちの学習機会や読書体験の獲得を後押ししています。

今後、さらにこうしたデジタル資料や教材が充実して、障害が学びや社会参加の足枷とならない社会が実現することを願ってやみません。

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ライター/著者プロフイール

保護者ライター。小学校に入学してすぐにホームエデュケーションに転向した娘と、親子でBranchを利用中です。
私自身は高校時代に不登校・起立性調節障害を経験したのち、大学・大学院へと進学、大学講師を務めるなどしてきました。「今日、学校に行く」という目先のことより、学校や社会と自分との間のズレを理解して折り合いをつけながらやっていくスキル、そして心身が健康であることがよっぽど大事!ということを身をもって感じています。
日々いろいろありながらも、娘と一緒に明るく楽しく毎日を生きることを目標にしています。母娘でインドア派なので、基本はおうちでぐうたら。推しポケはカビゴンです。

会社概要

Company

社名

株式会社WOODY


代表取締役

中里祐次


設立

2013年11月11日


所在地

〒150-0034 東京都渋谷区代官山町9-10 Sodacco 2T02


株主

㈱サイバーエージェント、㈱ウィザス、ANRI、レジェンドパートナーズ、笠原健治氏、乙武洋匡氏、佐藤裕介氏、古川健介氏、中里、その他エンジェル投資家


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株式会社WOODY


代表取締役

中里祐次


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2013年11月11日


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㈱サイバーエージェント、㈱ウィザス、ANRI、レジェンドパートナーズ、笠原健治氏、乙武洋匡氏、佐藤裕介氏、古川健介氏、中里、その他エンジェル投資家


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